約40年前に出て行った音信不通の父親の死

約40年前に出て行った音信不通の父親の死

警察からの電話

とある日、実家の母が出た電話は「元旦那さんが亡くなりました」

と警察からの突然の電話だったそうです。

「現在の家族がいないので戸籍を調べた所、母がでてきた

さらに子供達が実子にあたる為遺体をどうするかの確認です(できれば引き取って欲しいみたいな言い方)」

母は離婚しているし、何よりも借金を残して出て行って迷惑を掛けられたのに

死んでまで関わりたくない!!!!と激怒したそうです。

しかし手続き上家族全員の同意がなければ

遺体をどうにもできないとの事で実子である私にも確認の電話がありました。

借金を残し出て行った父親

流れる川

私がまだ小さかった頃、薄れた記憶の中で覚えているのは

父が酒に酔い暴れている時の事。

割れる茶碗に

怒鳴り声

すすり泣くのはおそらく母

ふすま一枚を隔てて聞こえてくる「怖い音」に

布団をかぶり震えていた記憶。

私が小学校に入学した時、父は女を作り借金を残し出て行きました。

借金の連帯保証人に勝手にされてしまったのは母

逃げてしまった父の行方はわからず

借金は連帯保証人である母が払う事になってしまいました。

昔の事ですので取り立ては厳しく、見るからにガラの悪い人が来ていたそうです。

私の記憶では「いつもお客さんがくるな~」としか覚えていません(笑)

母子家庭で生活保護

法を知る由もなく、働いた事もない母は4人の子連れでした。

仕事を掛け持ちして、借金を払いながら4人の子供を育てる苦労は小さかった私にはわかりませんでした。

3人の兄は中学生になると同時に新聞配達を始めて家計を支えていました。

借金を抱えた貧乏な母子家庭。生活保護を受けなければ生活なんてできない。

当時はまだ「離婚」や「母子家庭」「生活保護」というのは珍しかった。

きっと好奇の目や偏見等で見られていたり

もしかしたら・・・兄は何か言われてもいたのかもしれません・・・

生活保護も厳しく、生活保護を受けるとなると「生活に必要なもの以外は持つべきではない」との理由で

家にある嗜好品は全て没収でした。

兄が自分で購入して「大事にしていたラジカセを持っていかれて号泣していた」

と聞いた時は切なくなりました。

父親が急にいなくなってしまって生活が一変した。

心がついていけない思春期の兄たちは「父親がいないから非行に走る」との典型的なドラマのような流れで

グレて行きました。

父の姓のまま私達が名乗る事にしたのは、母の兄たちへ対してのせめてもの思いだったのかもしれない。

それでも行き場のない兄たちの気持ちや環境は救えなかったのでしょう。

貧乏とは

程なくして住んでいた一軒家も引き払い(売ったのか?取られたのか?)

近所の戸建ての2階部分が下宿みたいな感じで使っていた所が空いてるとの事で

借りて住みました。

そこは玄関の鍵が

フックのカギ

こんなのでした(笑)

防犯の意味なし!!!!子供心に鍵を閉める意味がない!!!

と思っていました。

お風呂もなし。水道からは水しかでない。鍵は物置のカギのよう(笑)

この時一番の貧乏だったのかもしれません。

しかし、数年後には兄たちが自立して家を出て社員寮などに移り住んでくれた為

何とかやっていけていたのでしょう・・・

借金の返済は約10年

朝から晩まで働き続けた母。

お陰様で倒れる事もなく、病気になる事もなく、生活保護を受けながら暮らしていました。

私が中学生になると同時に「市営住宅」が当選しました。

「市営住宅」は玄関のドアも鍵もしっかりしており、お風呂もありました。

そして前の住人が置いていってくれた湯沸かし器まであり、お湯が使えました。

やっとまともな家で住む事ができるのです。

その時はもう母と私だけ。

たった二人の生活になっていました。

それから数年後、私が高校生の時。

「借金終わりました」

母から聞いたこの一言でホッとしたのを覚えています。

それまで私は一番小さかったので、離婚の原因とか借金があったとか

母からは何も聞かされていませんでした。

私からも聞いてはいけない事のようで聞きもしませんでした。

なので実際どれだけの金額の借金だったのか

毎月支払っていた金額がいくらだったのか全く知りませんが

お金がない事は知っていました。

何となく借金なんだろうな、とも思っていました。

生活保護を受けている恥も心にしまい

開き直って友達に言っていました。

誕生日やクリスマスに高いものをねだってはいけない事もわかっていました。

私は母に迷惑がかからないようにだけ生きようと思っていました。

姿を消した父の姓が変わったといらない情報をくれた役所に憤慨した事もありましたが

母からの「借金終わりました」で全てが終わった気がしました。

夕日がさす

死んだと思っていた

それから数十年経ち母の親戚筋から元旦那さんが死んだよと聞いたそうです。

母から聞いた一報に私は何の感情も生まれませんでした。

【借金から逃れる為自分の苗字を捨てて再婚相手の姓にしたそうだ。】

【再婚相手は資産家だそうだ。】

そんな事を聞いているのだから死んだから悲しむはずはない。

自分は借金するだけして逃げて家族をあっさり捨てた。

面影もない。思い入れもない。けれど恨みはある。

同情の余地は全くありません。

 

あの時・・・

父が出て行かないで一緒に暮らしていれば・・・

私たち家族はどうなっていたのだろう?

と想像した事もありますが・・・

きっと家に残っていたらいたで面倒だったのかもしれないけれど。

 

もともと父の苗字は自分のものではなく、仕方なく継いだ苗字だったそう。

想いなんて何もない苗字だったのです。

もしかしたら、彼自身も幼少期に家族に捨てられていたと感じて生きてきたのかもしれません。

引き取る=部屋の撤去

約30年前、出て行ってから一度も会っていない父。

母の苦労を知っているだけ、私も母と同じ思いだ。

なんなら、まだ生きていたんだ!?という驚きの方が多きかった。

警察から話を聞くと

「一人で住んでいた。発見した遺体は警察の方で保管中。

遺体を親族が誰も引き取らないのであれば市の方に処理をしてもらう」

もちろん私は引き取らない。

兄も引き取らない。

死因も聞かない。

苗字も聞かない。

どこに住んでいるのかは言われてしまったから聞いてしまったけれど。

同じ市にいたの事にも驚いた。

遺体を引き取るのであれば、住んでいた部屋の撤去や清掃等も任される事になるでしょう。

なので丁重にお断りをした。

兄たちにも確認を取り次第処理になると告げられて電話を切った。

すでに死んでいると思っていたので突拍子もない連絡に驚いた。

今どんな顔をしているのだろうか?

どんな部屋に住んでいたのだろうか?

全てを許して引き取るか?・・・・

色々な想像をしてみたけれど

やめた。

辛かった日々が消えるわけではない。

苦労させられた上これ以上お金がかかるのも嫌だ。

ただ、私がこの世に生まれる為にいてくれた事にだけ感謝をして

冥福だけを祈ってあげよう。

相続放棄

遺体の引き取りを拒否してからは何の連絡もなし。

当然、その後どうなったかもわからずでした。

しかし、ある日父の住んでいたアパートの管理会社から連絡を取りたいとの事で警察からまた電話が掛かってきた。

その時に初めて父の苗字を聞いてしまったと同時に

先日、市の火葬により荼毘に付されましたと聞いた。

兄たちとは連絡を取っていないけれど、兄たちも引き取りを拒否したという事だった。

そこで管理会社の話というのは、父が車を所有していたのでその車を引き取るか否かという話だった。

車も財産になるらしく、家の中のものは全て放棄できるけれど車は手続きが必要だとの事。

家の中のものは全て廃棄で30万ほどかかったそう。

車は売れそうなのでどうするか、という事。

一瞬、貰って売ろうか?とも思ったけれど

やめた。

繋がりたくなかった。

全てお任せして放棄しました。

管理会社から最後に聞かれたのは

「部屋の中に仏壇があって写真があるんですがどうしますか?」

私達には全く関係のない人のだと思うので

処分してください。

切った電話の後に見たニュースで

父の旧姓・母の現姓・兄の現姓・私の旧姓である苗字と同じ地名で事故があったと報じられていた。

そして父の現在の姓は今の私の姓の一字違いでした。

あまりの偶然に思いを馳せた。

何かのお知らせなのか?引き取ればよかった?

でも私にはわからない。気づけない。

いや、気づいていたのかもしれないけれど

手放した。

ただそれだけだ。

晩年の一人暮らしの孤独死。

部屋にあった仏壇の写真は再婚した人なのであろう。

仏壇も用意してあげるほど大切にされていたのか。

その人とは家族だったのであろう。

死して思った事は何だったのだろうか?

私達に連絡がくるという事は他に子供はいなかったのだろうと想像できる。

 

歩んでいく道を選んだのは自分。

グレてしまった兄の人生も自分で選んだ結果。

私は幸せな家族を手に入れ、母は自由に老いていっている。

結局私と母は今の生き方で強くなり幸せを掴んでいる。

そう、これで良かったのだと思う。

 

彼がどんな人生を歩んできたのかは知る由もない。

最後に何を思っていたのかも

この人生で何を学んだのかも

私たちには知る由もない。

 

【主よ、みもとに近づかん】

 

安らかに。

日差し

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